海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER II. ふくそう海域・港内等の安全対策

海上保安庁では、海上交通の安全確保を図るため、海上交通ルールを遵守するように指導を行っており、特に、ふくそう海域における航路を閉塞するような社会的影響が著しい大規模海難の事故発生数を「ゼロ」とすることを目標として、海上交通センターにおいて24時間体制で的確な情報提供や航行管制を行い、船舶事故の未然防止に努めています。

令和3年の現況

船舶交通がふくそうする東京湾・伊勢湾・名古屋港・大阪湾・備讃瀬戸・来島海峡及び関門海峡での船舶海難隻数は745隻と、船舶海難全体の約4割を占めております。これらの海域で事故が発生した場合には、尊い人命や財産が失われるとともに、航路の閉塞や交通の制限により物資輸送が滞ることで、国際貨物輸送の99%以上(重量ベース)を海上輸送に頼る我が国の経済活動に大きな影響を及ぼすこととなります。海上保安庁では、ふくそう海域等での海上交通の安全を確保するため、次の取組を実施しています。

*民間救助機関等が対応した海難隻数を除く

1 海域毎の交通ルール及び安全対策

海上の交通ルールには、基本的なルールを定めた「海上衝突予防法」のほか、特別なルールとして東京湾・伊勢湾・大阪湾を含む瀬戸内海に適用される「海上交通安全法」、法令で定める港に適用される「港則法」があります。海上保安庁では、これらの法令を適切に運用することで、海上交通の安全確保を図っています。

ふくそう海域における安全対策

海上交通の要衝となっている東京湾・伊勢湾・名古屋港・大阪湾・備讃瀬戸・来島海峡及び関門海峡には、海上交通センターを設置して、船舶の動静を把握し、航行の安全に必要な情報の提供や、大型船舶の航路入航間隔の調整を行うとともに、巡視船艇との連携により、通航方式に従わない船舶への指導等を実施しています。

港内における安全対策

港則法に基づき、全国の87港を特定港に指定し、船舶の入出港状況の把握、危険物荷役の許可、停泊場所等の指定を行っており、また、一部の港においては船舶の出入港管制を行っております。

沿岸における安全対策

AISを活用した航行安全システムを運用し、日本沿岸において乗揚げや走錨のおそれのあるAIS搭載船に対して注意喚起や各種航行安全情報を提供しています。

2 海上交通安全法等の一部を改正する法律

近年の台風等の異常気象が頻発化・激甚化する状況を踏まえ、さらなる事故防止対策の強化のため、令和3年7月1日に施行された海上交通安全法等の一部を改正する法律により、
●異常な気象・海象が予想される場合の勧告・命令制度
海上交通センターによる情報提供、危険回避措置の勧告制度
などが創設されました。

これにより、特に勢力の強い台風などが東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海を直撃すると予想される場合、大型船等の一定の船舶に対し、湾外などの安全な海域への避難を勧告することなどができるようになりました。

また、それぞれの海域に、海上保安庁、行政機関、海域利用者等からなる協議会が設置され、勧告の対象となる台風の規模など具体的な運用ルールをあらかじめ策定し、台風が実際に直撃した際に円滑かつ迅速に対応できる体制を整えました。

昨年は、東京湾などにおいて湾外への避難を勧告するような台風の来襲はありませんでしたが、引き続き、本年の台風シーズンに向け、適切に制度を運用し、船舶交通の安全確保に努めてまいります。

潮流信号所の高機能化

関門海峡及び来島海峡は、屈曲した狭い水道であることに加え、潮流も速いため、古くから海上交通の難所として知られています。

これら2カ所の海峡には、潮流の状況を示す潮流信号所が設置されており、海上交通センターが運用しています。

潮流信号所には、大きなものでは縦12m、横9mもある電光表示板が設置されていて、60個以上の白熱電球を点滅させ、文字や矢印などで潮流の向きや強さ等を航行中の船舶へ知らせています。

船舶はこの情報を基に速力や進路を決定していますが、例えば、大型タンカーでは、時速約30kmから停止するまでに約15分間、距離にして約4kmも進んでしまうため、早めの操船判断を支援するには、電光表示板には遠方の船舶まで信号を届けられる十分な光力(明るさ)が必要とされます。

これまでの電光表示板の白熱電球は一般的な電球と同様に、しばしば断芯(いわゆる球切れ)することがあり、海上交通センターの職員が定期的に電球を交換する必要があるほか、消費電力も大きく費用もかかるというのが悩みの種でした。

海上保安庁ではこれまで、この白熱電球に代わるものとして、省エネ、長寿命に加え、応答性にも優れているLEDの利用を検討していましたが、十分な光力を得られるものがありませんでした。

しかし、近年では、白熱電球を上回る光力を持つ高輝度LEDが開発・実用化され、普及が進んできたことから、潮流信号所等にもLEDの導入を進め、電光表示板の視認性及び視認距離を向上させることで、船舶交通の安全性をより高めるとともに、費用や環境負荷の低減にも取り組んでいるところです。

<電光表示板>

<電光表示板>

<電光表示の内容>

<電光表示の内容>

<視認性向上>

<視認性向上>
今後の取組
海域の監視・情報提供体制の強化

船舶事故の未然防止を図るため、レーダーや監視カメラ等、海域の監視体制を強化するとともに、船舶に対して、自然災害や海域の状況に関する、より正確な情報を提供していきます。

船舶の航行安全のための技術開発

航行管制業務において、船舶の衝突、乗揚げ、走錨等の危険を回避するための新たな技術開発を推進するほか、カメラ画像から船舶の位置を把握する技術を開発し、船舶の航行安全の向上を図ることとしています。

自動運航船に係る検討の実施

近年、世界的に自動運航船に対する関心が高まってきており、我が国においても令和7年までの実用化を目指し、技術開発等が進められています。このような状況をふまえ、海上保安庁では、国際海事機関(IMO)や関係国の海事機関等による自動運航船関連の会議に参加しているほか、国内では関係省庁や海事関係者が集まる会議に参加するなどして、自動運航船の実用化を見据えた海上交通ルールに関する検討を行っています。

引き続き、国内外の技術開発の動向を把握しつつ、必要な課題について検討を行っていきます。